はじめに
「売上が下がって困っている」——これは多くの中小企業経営者から聞く悩みです。しかし、公認会計士として多くの企業と関わる中で、私はこう感じるようになりました。
売上が下がっている本当の原因は、売上を生み出す『人』がいないからだ。
今回はその本質に迫りたいと思います。
外部環境に責任を求めても、売上は戻らない
経営者に「なぜ売上が下がったのか」と聞くと、返ってくるのはこんな答えです。
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「不景気だから」
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「人口が減ってきたから」
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「モノが売れない時代だから」
たしかに、どれも正しい理由です。しかし、同じ外部環境の中でも、売上を伸ばしている中小企業もあります。つまり、原因は“外”ではなく“内”にあるのです。
多くの中小企業が「環境のせい」で片付けてしまう背景には、「自分たちが変われること」に気づいていないという現実があります。
変わるのは、まず「人」なのです。
中小企業に本当に足りないのは「作業をする人」ではない
多くの中小企業では、「作業をする人」は十分にいます。
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指示通りに動く人
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現場を回す人
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ルーチンワークをこなす人
しかし、売上を生み出すためには、それだけでは不十分です。
必要なのは、
経営者の考え方を持った「高い価値を生む人」
です。
たとえば、こんな人材です。
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「この商品、もっとこうしたら売れそう」と自ら提案できる
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数字を見て、利益率や在庫回転率に気を配る
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顧客との関係性を自ら構築し、次の売上を作っていく
こうした視点を持った人材がいない限り、売上は上がりません。
そして何より大切なのは、「自分ごと」として経営課題を考えられるかどうかです。どんなに優れたオペレーションがあっても、それを活かす「考える人」がいなければ成果は出ません。
売上を生む人材を育てるには?
「経営者のような思考を持つ社員を育てる」と聞くと、多くの経営者は「うちの社員には難しい」と感じるかもしれません。しかし、最初から完璧な人はいません。ポイントは、以下の3つです。
1. 数字で会話する文化をつくる
売上・原価・利益などの数字を、社員と共有し、数字に基づいた議論をする。
たとえば、商品1つ売るのに、どれだけの利益が残るのか?
その利益から何が支払えるのか?
こうした問いを社員と一緒に考えることで、経営感覚は少しずつ育っていきます。
2. 部門ごとのPLを見せる
「自分たちの仕事が、どこにどう影響しているか」を数字で見せると、当事者意識が生まれます。
会計は難しいという印象を持たれがちですが、色を使った図解やグラフで視覚化すれば、現場社員にも十分伝わります。
3. 小さな意思決定を任せる
すべてを指示するのではなく、小さな範囲で良いので“任せる”ことで思考が育ちます。
たとえば「POPのデザイン」「キャンペーンの構成」「仕入れの量」など、身近なテーマであれば社員も前向きに取り組めます。結果が出ると、自信にもつながります。
「人」に投資しないと、どんなに良い商品でも売れない
私は世界4大会計事務所のKPMGで、売上が数億〜数兆円の企業を見てきました。
その経験から断言できるのは、
商品・サービスが素晴らしくても、「売る人」がいなければ、会社は成長しない。
ということです。
営業を強化する、SNSを活用する、広告を打つ…。これらはすべて、「売る人」がいることが前提です。
つまり、「売上を生む仕組み」は「人」であり、「人を育てること」が最大の経営戦略なのです。
社内に眠る“原石”を見つけよう
「そんな人材、どこで採用すればいいんだ?」という声もあるでしょう。しかし、今いる社員の中に、伸びる素質を持つ人材がいるかもしれません。
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普段は口数が少ないけど、数字に強い人
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顧客に対して自然に気配りできる人
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業務改善に対して細かく目が届く人
そうした社員に、少しだけ「経営の視点」を見せてあげることで、思いがけない成長を遂げることがあります。
「社員を信じて任せてみる」——それが始まりです。
まとめ
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売上が下がる原因は、「売上を生み出す人」がいないこと
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作業をこなすだけでなく、価値を創造する人材が必要
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数字を共有し、意思決定を任せ、当事者意識を育てることが第一歩
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経営者の思考を持つ人を育てることが、成長の鍵
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社内にいる“原石”を見つけて、投資する
これからの中小企業に必要なのは、
売上を追いかける前に、「売上を生み出す人」をつくること。
人が育てば、売上は後からついてきます。
一緒に、経営の土台から見直していきましょう。